プログラムの背景
Nikkei Decolonization Tour(NDT)は、2002年にユリ・コウチヤマが初めて日本の差別の実態を被差別部落民女性と在日朝鮮人女性の人生体験の語りから学んだことから始まりました。日本における被差別民の人々との対話と連帯を模索する中で、この取り組みは生まれました。
NDTは、抑圧を経験してきた当事者として人権と正義を勝ち取ろうと活動をしているマイノリティ・コミュニティ同士が出会い、学び合い、連帯を築くことを目的としています。人種差別、経済格差、社会的不正義といった課題に対して、国境や立場を越えて向き合ってきました。
これまでに、連帯ツアー(2009〜2012年)、サンフランシスコでの「慰安婦」メモリアル設置運動(2016年)、そして2019年・2023年の日本への共同代表団派遣(関東大震災時の朝鮮人・中国人虐殺の記憶と正義を求める活動)など、多様な実践を積み重ねてきました。
現在では、世代や国境を越えたネットワークが広がり、この活動を支えています。北米に生きる日系ディアスポラと、日本社会の中で周縁化されてきた人々が出会い、つながることで、国家中心の歴史やアイデンティティを問い直し、新たな関係性と理解を築いています。
帝国の歴史から問い直す「NIKKEI」:
このプログラムの文脈において、「NIKKEI」という言葉は「日本国民とその子孫」に限定されるものではありません。むしろ、在日コリアン、沖縄、アイヌなど、日本帝国の中で歴史的に周縁化されてきた人々も含めて捉え直されるべきものです。
これらの人々は日本と切り離すことのできない関係の中にあり、同じ地理的空間において社会を共に形づくる主体として、これからのあり方をともに考え、決定していく上で不可欠な存在です。
私たちの目標
差別のない社会を実現するためには、差別を経験してきた当事者が、その解決のプロセスに主体的に関わることが不可欠です。なぜなら、その経験から生まれる知識こそが、社会を変える力になるからです。
北米を拠点とするNDTは、この地で周縁化を経験してきた日系ディアスポラと、日本国内で不可視化・排除されてきたコミュニティをつなぎ、国境を越えた草の根の「横の連帯」を築くことを目指します。
そして、こうしたつながりを通して、見えにくくされてきた歴史や構造的な差別を学び直し、誰も取り残されない正義をともに模索していきます。
基本理念
批判的思考に加え、記憶や語り、経験は、社会を変え、未来を創る力になると私たちは考えます。
差別の撤廃は、当事者の声と参加なくして実現できません。平等な社会のためには、周縁化された人々が意思決定の場に関わることが不可欠です。
あらゆるアイデンティティ(民族的・文化的・性的など)は、社会にとって脅威ではなく、むしろすべての人が安全に生きられる社会を築くための知恵であり、豊かさそのものです。
権利や平等は、上から与えられるものではなく、当事者自身が、ときに広範な連帯や共闘を通じて主体的に勝ち取り、築いてきたものです。
社会変革は、個人のアイデンティティや政治的意識の変化とも深く結びついています。そのプロセスをともに歩む人々がつながることで、これまで周縁化されてきた語りが集まり、新たな集合的ナラティブとして「歴史」を編み直していくことが可能になります。
NDTの特徴・魅力:
学習法としてのプラクシス:
実践と理論の相互的効果を重視する
実践は単に理論に情報を与えるものではありません。むしろ、生きられた経験を通して新たな概念を生み出し、既存の枠組みに問いを投げかけることで、理論そのものを組み替え、変化させていく力を持っています。
理論と経験をつなぐ
知識を机上のものにとどめず、現場での経験と結びつけることを大切にしています。当事者のコミュニティと直接出会い、対話することで、より深い理解を育みます。
何を学ぶの?:
自分を見つめ直す
自身の立場やアイデンティティを問い直し、国家や歴史の枠組みを批判的に捉えます。日系という枠組みを含め、自らのルーツや関係性を再考します。
抑圧の構造を学ぶ
このツアーは観光ではありません。人々との出会いと語りを重ねながら、差別や抑圧の構造がどのように形成され、誰のために機能してきたのかを多角的に学びます。
「生」の運動の歴史に触れる
権力に対抗してきた運動の担い手から直接学び、過去の闘いの教訓や経験を継承します。世代や時代を超えて蓄積されてきた知は、次の社会変革運動を担う力となります。こうしたアクティブ・ラーニングや交流の機会を提供します。
社会還元:
支援アクション
NDTは協働を通じて現場の社会運動に貢献したいと考えています。たとえば、「慰安婦」メモリアル運動への関与、1923年虐殺100周年の記憶実践への参加、生存者証言の翻訳など、連帯のための多様な貢献を行ってきました。
学びを社会へ
参加者はツアー中も帰還後も体験を人々に伝える役割を担います。ストーリーテリングや翻訳、また、接触可能なメディアを通じて、ツアーで出会った周縁化された人々の語りを広く伝えます。
コミュニティ:
活動維持の生態系を築く
渡航に先立って、共同学習、責任の分担、コミュニティでの資金あつめ、帰還後の報告活動を通じて、コミュニティに対しての説明責任を果たし、持続的な関係性を築くことで、活動基盤の強化に努めています。
連帯を実践する
ここでいう「連帯」とは、英語圏で「草の根オーガナイジング(grassroots organizing)」と呼ばれてきた社会変革の実践に基づくものです。問題意識を共有する当事者を含む人々がつながり、個々では持ち得ない力を、集団としての結束によって生み出していきます。こうしたプロセスを通して、目的を共有する人々が広がり、政治力や経済力、知名度に依らずとも、運動や主体を戦略的かつ効果的に支えることが可能になります。
関係性の構築
ツアーの前・最中・後を通じて、意図的に対話の機会を設けています。ファシリテートされたディスカッション、食事を共にしながらの交流、個別のやり取り、あるいはより構造化された共同プロジェクトなど、さまざまなかたちで関係性を育みます。こうした一対一のつながりを大切にすることで、参加後も再びつながり直し、関係をさらに深めていくための基盤を築くことを目指しています。
メッセージ(金美穂・世話人)
戦後日本は「戦後」であっても、決して「帝国後」とは言えない現実が、いまなお国内で周縁化・排除されてきた人々の生活や経験の中にはっきりと現れています。こうした人々の声は、これまで社会の中で十分に語られてきたとは言えません。
日本社会における不平等や差別の構造は、歴史的に形成されてきた国家や権力の枠組みと深く結びついています。支配的な語りだけでなく、その影で消されてきた声や記憶に耳を傾けることが、新たな関係性と未来をひらく一歩になると考えています。
私たちはそれぞれに、マジョリティ性とマイノリティ性の両方をあわせ持っています。差別や不平等は複雑に絡み合いながら社会の分断を生み出していますが、その構造は決して他人事ではありません。
だからこそ、新たな学びや気づきを通して、自分自身の、ときには複雑な社会的立場や、歴史との関わりを見つめ直すことが、より明確な自己認識、深い理解、そして連帯へとつながっていくのではないかと考えます。
ぜひ一緒につながり、学び、支え合いながら、記憶と知識を共有し、東アジアにおける“地中海的な海域空間”の将来の利害を共有するもの同士として「私たち」の可能性をともに築いていきましょう。
参加者募集!
NDTは、草の根の活動として自律的に運営されています。
このプログラムの趣旨と目的に賛同し、実践したい方を歓迎いたします。参加者、ドナ
ー、ボランティアなど、それぞれの希望と条件に応じた関わり方があります。ご連絡をお待ちしています。info@nikkeidecolonizationtour.org